タベルナクルにみる額縁の神髄

額縁の種類にtabernacle(タベルナクル。ラテン語ではtabernaculum(タベルナクルム))と呼ばれるものがあります。その生い立ちは古く、一般的に額縁の起源とされる画枠にもその一端がうかがえるように、一種建物の一正面を縮小したような造りは、宗教色の強い絵画(例えば祭壇画や宗教画など)を収める時などに多用されていました。もともと名称の由来が聖体を収めた幕屋あるいは建築用語の壁龕を語源されていることからも容易に想像できることと言ってもいいでしょう。両側に建つ柱や下にある台座、上部にはコーニスがあり更にその上にはペディメントが有ったり無かったりと多少の違いはありますが、格調ある古代建築様式に変わりはありません。そんなタベルナクルを見られるのが、ロンドンにあるナショナルギャラリー所蔵のImitator of Fra Filippo Lippi(フィリッポ・リッピの模倣者)作とされる「The Virgin and Child with an Angel(聖母子と天使)」です。当初は木彫家としてピサ大聖堂の合唱席座席など数々の作品を製作し後に建築家に転向してからはファエンツェ大聖堂などを設計したことでも知られるGiuliano da Maiano(ジュリアーノ・ダ・マヤーノ)が15世紀後半に製作したと考えられています。製作当初は別の作品が収められていたと言われており、今では傷みも進んで一部欠損もみられますが、現存するタベルナクル額縁の貴重な作品として一見の価値ありと言っていいのではないでしょうか。